平成6年度から信用保証料の返戻(返金) 信用保証料 【後編】

2018年06月01日

信用保証料の返戻(返金)は平成6年度からです

 

信用保証料の税務上の取扱い、正しい処理は何だろう?と長い間考えてきました。

前編のように皆さんに支えられて、信用保証料の税務上の取扱いをWeb掲載するに至った次第です。

 

信用保証料の税務上の取り扱いについて理解を深めて頂くため、前編(仕訳及び勘定科目)に続いて後編では、辻君と松本君に登場してもらい、信用保証料の周辺事実について、話をすすめてもらいます。

納得する人

松本君:前回、男と女の税務その⑦で出てきた「人生いろいろ…」は島倉千代子さんのイメージかなぁ?

辻 君:えっ?「会社もいろいろ」とつながっていたから、小泉さんの国会答弁じゃないの?

松本君:そんなこともあったね(笑)。ところで、信用保証料は返戻(返金)されるから前払費用だ、という人がいるけど、ホントかなぁ?

辻 君:そう言う人もいるね。でも、いつから返戻されるようになったか知ってる?

松本君:えっ!最初からじゃないの?

びっくりする人

辻 君:信用保証料の返戻(返金)は平成6年度からだよ。借入金中途一括返済を理由として、信用保証協会が支払った信用保険料が信用保証協会に返還されることになった。中途一括返済すると、それを原因として会社に信用保証料が一部返戻されるようになった。

松本君:それじゃあ、信用保証料返戻を理由に前払費用だとは言えないね。それでは平成5年度以前は繰延資産だったのかなぁ?

辻 君:どうだったのかなあ?しかも、今でも信用保証協会の保証委託契約書では、違算を除き返戻しないと言っている。

松本君:契約書では返戻しないとなっているのに、中途一括返済したら保証料が返戻される?

辻 君:信用保証協会のWebサイトのなかには、中途一括完済しても保証料の返戻をするとは限らないと書いてあるものもある。

松本君:ありゃー、これじゃ、ますます保証料返戻を理由に前払費用だとは言えない。

泣く人

辻 君:名古屋高裁金沢支部判決平成17年1月12日判決では、税法的性質を前払費用であるとしながら、費用配分の計算方法は月数按分が妥当であるとしたんだよ。

松本君:月数按分は、法人税法の別段の定めに規定される繰延資産の損金算入限度額の計算方法だったね。

辻 君:そう。合わせ技一本!だね。でも、前払費用説と繰延資産説の合わせ技では、原告会社が何だか可哀そう、と感じるのは、僕だけかなぁ?

怒る人

松本君:シドニー五輪柔道の世紀の大誤審を思い出すね。篠原選手が可哀そうだった。明らかに審判の稽古不足。合わせ技と言えば、時価相当額で更正処分がなされているのに値上り益課税説と経済的利益説の両方を判示した財産分与の最高裁判決(男と女の税務その①にて紹介)みたい(笑)。

辻 君:インターネットでは、企業会計原則注解の前払費用の定義を根拠として信用保証料を前払費用だと説明するものが多いね。

松本君:税務判例ではないけど、最高裁第三小法廷平成28年1月12日判決は「信用保証協会は信用保証を行うことを業とする法人である」ことを判示した。債務保証ではなく信用保証を業とする・・・。

辻 君:信用保証料を支払わせて、そのうえ保証人を立てさせるから、支払う側は納得できるわけがない。僕なんか、銀行窓口で大ゲンカ(笑)。

松本君:信用保証料の支払い経験がある税理士が全国でも少ないことが、この分野の研究が一向に進まない原因の一つだと思うけど、経験があるんだね。

辻 君:エッヘン!そう僕、その少ない中の一人(笑)。

照れる人

松本君:僕なら、信用保証料を負担し月々借入金を返済している辻税理士に依頼するよ(笑)。認定支援機関のなかでも数少ないよね。ところで、信用保証の定義って何だろう?

辻 君:信用保証協会法第1条の「中小企業者等に対する金融の円滑化を図ること」かな?

松本君:だとすると、金融の円滑化のために提供される役務とは何だろう?融資実行のために信用を与えることかな?いま仮に、信用保証料が前払費用だとするなら、法人税法22条3項の債務確定主義によってその事業年度の損金の額に算入する金額は、どうやって計算するの?月数按分は認められないんだよね?

疑問がある人

辻 君:それがナゾなんだよ。1か月いくらの契約ではないから、契約書には書いてない。国税不服審判所の平成19年2月27日裁決では、法人税法第22条4項がでてくるけど、法人税法には債務確定主義があるんだから公正処理基準は関係ないんじゃないかなぁ?ましてや、施行令で前払費用を定義づけしているしね。
契約書だけでは、納税者は、「1ヶ月いくら?」が、わからない。さらに、その事業年度にいくらの損金算入をすればよいのかわからない。前払費用として損金算入をさせたいのなら、裁決が租税法に基づく債務確定主義との関係をもっと詳しく説明しないとね。

松本君:そうそうこの間、会計学の教授に聞いてみたら、会計期間の費用金額の認識は、会計学の世界でもまず契約書で決めるんだって。法人税法22条3項と同じ。

辻 君:だとすると、裁決事例の理由付けにも発展の余地がある。当時の受験生からは大ブーイングだったけど、税理士試験の法人税法の理論問題、三年連続で22条がでたことがある。債務確定主義は大切だね。

納得する人

松本君:ここで大いに参考になるのが、金子宏東京大学名誉教授が著書の中で、「支払火災保険料」を繰延資産だと言っていること。信用保証料と共通点がありそう!

辻 君:そだね~(笑)。中小企業の会計に関する指針では、保証料や保険料は前払費用の例示として挙がっているけど、その指針作成に租税法学者は参加していない。

松本君:支払家賃の場合は契約書で、1か月いくらが決まっているから、支払う側、受け取る側の双方が前払いの金額がわかる。

辻 君:そういえば、生命保険料は1か月いくらかわかる商品があるけど、一括払いの火災保険料はわからない。このあたりも何か関係しそう。このように考えると、中小企業が会計指針を利用することにより信用保証協会が信用保証料の割引をしたことは、時期尚早だったのかもね。今後の国税不服審判所裁決の理由付けに期待したいね。

松本君:僕は、日本税理士会連合会会長が税制審議会に「前払い信用保証料と前払い火災保険料の税務上の取り扱い」を諮問してくれることに期待しようかな(笑)。

期待する人

 

 

会議後の帰り道で会議の延長?

さぞかし、二人も疲れたことでしょう。お疲れさま~☺。次回のまとめ編では、問題点を列挙します。お楽しみに。